談の湯
インタビュー

第2回 星山耕太郎様【後編】
崎山蒼志モバイルファンクラブ「崎山寝返りの湯」にて不定期に実施する「談の湯」
このコンテンツは崎山蒼志が是非この方にインタビューしたい!という方を
お呼びし崎山自身がインタビュアーとなりお届けする対談コンテンツです。
第2回目は画家であり、『Face To Time Case』のジャケットアートワークを作成いただいた星山耕太郎さんをお迎えし、前後編でお届けいたします。前編では星山さんのアートとの向き合い方や影響を受けた本についてお伺いしました。後編では星山さんのネタ帳を見せていただいたり、作品への深い考え方を伺いました。星山さんから見た崎山蒼志の印象や好きな食べ物、嫌いな食べ物などのライトな質問も。好きな映画では以外な共通点から話が弾み・・?



前編はこちら


崎山 星山さんは、普段ネタ帳を描かれてるじゃないですか。あれは年に何冊ぐらい描かれるんですか?


星山 4、5冊ぐらいですね。2008年から2019年まではそのペースで描いてたんですが、2020年以降はデジタル端末に描くようになりました。今日一応持ってきたんですよ。たくさんありすぎるので、一部ですが。




崎山 うわー、ありがとうございます。すごすぎる。最初に絵を描いていただくときに拝見したのですが、まずこのネタ帳がすごすぎると思って。


星山 所有欲が強いんでしょうね。常に思いついたこととか感じたことを全部ずーっと描いています。この中で実際作品になったものはあんまりないんですが。
会社員をやっていたので、合間を縫って少しでも生み出したいって思って、昼休みに描いたりとかを10年ちょっとやって、今はiPadとかで描いたりしてます。

崎山 そういったネタ帳とかメモの絵って、普段街を見て歩いてて、受け取ったものを描いてみたいな感じですか?


星山 それもありますね。デッサンをカフェで描いたりとか。ただそれは筋トレに近くて、アイデアの元になることは少ないです。元になるのは、他の作品を見たときなんですね。本を読んだり映画を観たり、それこそ音楽聴いたり。そういう人の作品からインスピレーションが浮かぶことが多くあります。
外を歩いているときは目的があったらそこと自分の位置を直線で結んだところだけ辿るという歩き方なので、ウィンドーショッピングが出来ないんです。

崎山 そうなんですね。じゃああんまり、周りの風景とかをずっと見てる感じじゃないってことですね。


星山 そういうところにあんまり行ったことがないっていうのもあるかもしれないですね。海外のいろんなところに行ったり、そういう見慣れてない非現実的なところに行ったときに、ひょっとしたら何か得るものがあるかもしれないですけどね。ジャコメッティっていう彫刻家が言ってたんですけど、小説家とか文章を書く人は旅行したほうがよくて、僕ら造形作家は一生ここにいたっていくらでも描けるんだって。

崎山 かっこいい。


星山 その人はものすごい巨匠で、ずっと人体を彫り進んでいく。それの意味って、さっき少しお話しした、自分のことを彫り進んで理解していくと、同時にそれはみんなにも共感できることに行きつくという考えがあるのかなと僕は思っています。
幼いころとか、例えばこういうことされたら怒るとか、こういうことされたらうれしいとか、本質的にみんな認識の機能って一緒じゃないですが。そういう普遍的な、みんなが思うようなことが、自分をサンプルにして掘り出せないかというのが自分にはあって。そのジャコメッティって人もそういう意味で、外に探すんじゃなくて、自分の足元を掘れと言ってるのかなって勝手に思っています。

崎山 なるほど。


星山 どんなに遠くに行っても、その遠くの人から見たら、ここがいちばん遠いじゃないですか。いちばん斬新なのは実は自分の真下にある感じがしています。来週「違った」とか言い始めるかもしれないですけど(笑)。

崎山 なんかわかる感じがします。


星山 うれしいですね。僕の勝手なイメージだと、崎山さんは場所に関してすごく感受性がある感じなんですが、静岡県から来て、環境が変わったり、初めての場所で演奏したりとか、土地が変わることが作品に影響しますか?

崎山 すごくします。部屋とかによっても全然変わってしまうし、部屋の間取りとか配置とかでも。真っ白な空間で音楽が作れないです。
脅迫されているような感じというか。だからあんまり歌の景色が見えないというか。


星山 ごちゃごちゃしてたほうが居心地がいい?

崎山 そうですね。ごちゃごちゃしてたりとか、ちょっと土っぽいっていうか、自然色だとすごく音楽が作りやすいです。


星山 むちゃくちゃ面白いですね。そういうところに崎山さんのエッセンスがある感じがしますね。

崎山 なんで自分がそうなのかっていうのを考えていくのもいいかもしれないですね。


星山 そこを追求して、自分がいいと思ってることの上に追求があるから苦しくないですしね。

崎山 そうですね、苦しくない(笑)。

崎山 『Face To Time Case」はジャケットの絵を描いてくださった際に、事前にアンケートしていただき、本当にありがとうございました。人物画を描くときとか、特に意識する人物の特性とか、好みとか、インタビューしていただきました。


星山 最初にこれをポイントにして聞こうっていうことは特になくて、まっさらな気持ちで質問させていただきました。普段からわりとパーソナルな質問をするようにはしてて。そうすることで、お互いに気持ちが開き合ったときに、これがこの人のエッセンスかなみたいなことをつかんで、それを絵の中心に置くという感じですね。

崎山 なるほど。


星山 崎山さんのインタビューから僕が感じ取ったのは、〈ニュートラルな透明感〉というキーワードで。これは僕の勝手な印象なので、崎山さんは違うかもしれないんですが、何にも染まってないというか染まりたくないというか、そういうフットワークの軽さとか、抽象性が絵に出たらいいなと思って。それで透明感のある緑、自然色を使いました。
あと森を描いたのは、自然に溶け込んでいく感じとか、そういう透明感を出したいなと思って。顔も、表情を持たせないほうが、可能性を表現できるような気がして。
あとはどう表現しようかなっていうのはまた別の行程なんですけどね。すごい楽しかったです、あのインタビュー。


崎山 いやあ、ありがとうございます。


星山 驚きの連続で(笑)。

崎山 その節は本当にありがとうございました。
歴史的な人物というか、例えばピカソさんを描かれるときは、どんなことを考えますか。
(星山さんのInstagramにて作品“Pablo Picasso”が公開されています。https://www.instagram.com/p/CdhoL08LAzm/?utm_source=ig_web_copy_link)


星山 基本的には、どの絵を、例えばピカソを描いても、ピカソを表現してるわけじゃないんですね。自分の描いた絵は、誰にとってもあるよねっていう要素。じゃあ、ピカソだからピカソに関係している、ピカソの作品のこのエッセンスを入れようとかはなくて。単純にあれをなぜピカソにしているかっていうのは、大げさに言うと、例えば自分が死んであの絵だけが残ったときに、この作品は、この人の影響で描かれたんだなっていうのを残しておきたいっていうのがあって。自分が作品で影響を受けた人をテーマに、アーティストから得たインスピレーションを描いてるんです。

崎山 なるほど。ダリの絵とか、ダリが使ってなかった画法で描いてるっておっしゃってて、それがすごくずっと印象に残っていて。
(星山さんInstagramより"Salvador Dali":
https://www.instagram.com/p/CdR6GO2PGp0/?utm_source=ig_web_copy_link)


星山 本来、みんなが持っているダリのイメージと真逆とか全然違うイメージをぶつけて、その差で生まれるエネルギーを利用したりしてやってます。

崎山 その話が忘れられなくて。


星山 崎山さんは、トム・ヨークをテーマに曲を作るとか、モーツァルトをテーマに曲作るとかはしないんですか?

崎山 すごく興味あるかもしれません(笑)。トム・ヨークなのに、日本の楽器だみたいな。


星山 全然違うのが鳴っていたら面白いですよね。


崎山 少しライトな質問しますけど、好きな食べ物、苦手な食べ物を知りたいです。


星山 苦手な食べ物がきゅうりと生ガキ。ほんとに社交の場で苦労しますね。

崎山 きゅうりとかいっぱい出てきますよね。


星山 無理して食べちゃうととんでもないことになっちゃうので、最初に言います。生ガキも、カキ小屋とかみんなで行こうぜってなると、楽しめないんで、「じゃここで僕は失礼します」って(笑)。

崎山 あはは。苦手なんですね。

星山 なんでなんですかね。その理由を考えて絵になったらいいなと思ったら、最終的にカブトムシにしかたどり着かなかったです(笑)。カブトムシに与えてたきゅうりに関係してるのかなというところで止まっちゃいました。

崎山 何か因果してるというか、味とかだけじゃなくそういうところも影響があるんですね。好きな食べ物はなんですか?


星山 好きなのは、粉ものが好きです。たこ焼きとかお好み焼きとか。子供が好きなやつが好きですね、カレーとかスパゲッティとか。

崎山 大好きです、僕も。


星山 いいですよね。気持ちも温かくなる。

崎山 行ってみて感動した場所はありますか? 国内、国外問わず。


星山 スペインのマドリードで、プラド美術館に行って、そこで見た絵ですかね。あとピカソのゲルニカとか。やっぱり結局絵なんですよね。
スペインの文化とか場所も感動はしたんですが、みんなが観光で思うような、〈うわ、いいな〉ぐらいのレベルでした。実際に自分が集中して、じっくり見てしまうのは絵の前だったりしましたね。もっとカッコいい答えができたらよかったですけど(笑)。

崎山 いえいえ、カッコいいです。好きな映画はなんですか?
Twitterで映画のことをたまに書かれているので。


星山 この一作だけで亡くなられた俳優が監督した作品なんですが、一番は『狩人の夜』っていう昔の映画です。カルト映画なんですが、ほんとに斬新なことをいっぱいやっていて。例えば今では当たり前なんですけど、手前のものと奥のものがどっちにも照準が当たってるようなカメラワークって、昔難しかったんですよね。でも、どっちにもピンが当たってるとか、そういう地味な裏技をいっぱい使っていて。例えば、遠くに人が歩いているのを、目の前にでっかい蛙がいて、その蛙越しに撮っていくとか、生物と共存してるということを強調させたりとか、いろんなテクニックが使われています。ホラー映画なんですが、コメディータッチでずっと撮ってるんです。
そういう、いろんな自分の実験精神を詰め込んだ映画で、非常に感銘を受けましたね。


崎山 観ます!


星山 あと変な友情系の感動が好きなんで、『グリーンブック』とか結構好きでしたね。
異なった人種の人と価値観が違う人が、簡単に言うとわかり合えるような、そういう映画が好きですし、あとホラー映画が好きなんですよ。

崎山 僕も好きです、ホラー映画。たくさんは観てないんですけど。


星山 どういうものを観たりしますか?
崎山 めちゃくちゃ有名な映画ばっかりなんですけど、『シャイニング』も大好きだし。


星山 『シャイニング』いいですよね。

崎山 超大好きです。顔ももちろん大好きなんですけど。


星山 ウサギさんとか出てくるんですよね。

崎山 ラストも大好きで。死んでて、最後ホテルの写真に昔いた人として写ってる。結局このホテルに閉じ込められちゃったというシーン。


星山 一体化するんですよね。

崎山 すごい笑顔で。


星山 あれ、笑っていいんだか、怖がっていいんだかわかんないですよね。でもあの感じがいい。

崎山 あの感じが大好きですね(笑)。


星山 雪山から顔だけ出てるのとか。

崎山 血の海みたいなエレベーター、あれもカッコいいし。


星山 なんでしょうね。あれこそ、ほんとの表現というか。キューブリック監督って、理屈で全部作ったあとに、抜いていくらしいんですよね、間を。

崎山 そうなんですか、すごい面白い。


星山 制作過程が面白くて、『2001年宇宙の旅』とか同じ監督さんですけど、わりと合理的な人で、合理的に作ったあとに、画的にいいところだけを全面に押し出して、説明を抜いていくらしいんです。

崎山 そういった映画に思えますね、『シャイニング』も。それは感じた。


星山 そうですよね。不思議なんですけど、なんとなくつながってるんですよね。
崎山 画が強い。でも説明がないですよね。


星山 説明がないけど、なんとなくわかるように作ってるところが上手で。「理解できないものは存在しない」という考えの監督だったそうです。見えないものはないんだっていう。
『シャイニング』ってもともと幽霊の原作のお話なんですが、幽霊は見えないので、ないってことにして。もともとはスティーブン・キングの作品で、主人公が、彼自身だったらしいんですよ。その人が狂っていく映画に変えていっちゃったんですね。

崎山 むちゃくちゃ変えちゃってる(笑)。


星山 そのへんも、原作者が怒ってるらしいです。

崎山 わかりやすい幽霊描写もあまりない気がします。


星山 これが面白いのが、一ヵ所だけ倉庫に閉じ込められるシーンがあって。
そこって、勝手に幽霊が開けてくれるんですよ。誰が開けたか合理的に説明できないのがあって。そういうのをあえて入れたりして、簡単に理屈で理解できないようなものを、あとから演出でいじくるらしいんですよ。それは面白いなと思って。

崎山 確かにそうですね。


星山 ホラー映画ってそういう工夫があって面白いですよね。

崎山 本当に、知れば知るほど面白いなと思います。
話は変わりますが、最近聴かれている音楽はありますか?


星山 最近はヴェネチアン・スネアズとか聴いてます。ブレイクコアの。

崎山 ああ、ドンドンパンツカツッみたいな。


星山 そうです。ドラムンベースが激しい。いろんな音楽サンプリングして、勝手に垂れ流してどんどん展開していくような。
ああいうのを聴いてると刺激になったりしますね。ほんとに雑食なんですが、パンク系が多いんですかね。僕の時代はパンク全盛期だったんで、デッド・ケネディーズとか、バッド・ブレインズみたいな。80年代のハードコアみたいなのがすごい好きで。

崎山 なるほど。リラックスできる休憩方法は何ですか?


星山 ゲームします。あと、公園が大好きで、日比谷公園とか好きで、公園にただ存在してる、何もしないで。
田舎行って森とかは違くて、公園が好きなんですよね。そういう場所にいると、ニュートラルになれますね。

崎山 ある意味ぼーっとできるというか。


星山 習慣づけなのかもしれないですね。公園行ったときは考えないようにしようっていうのを繰り返してたら、そういう風になったのかもしれないですね。
崎山さんはありますか? 癒されたい願望とか。

崎山 めちゃくちゃありますね、常に。


星山 銭湯とかですか?

崎山 銭湯大好きですね。


星山 ブログに、湯って書いてたので。

崎山 あ、そうです。「推しの湯」とか。温泉とか最近はサウナとか。ミュージシャンの人が連れてってくれたりして。前はちょっと抵抗があったんですけど、あ、いいものなんだって。


星山 整ったってやつですね。

崎山 色々と質問させていただき、とても興味深かったです。


星山 逆におすすめの本教えてくれませんか?

崎山 『なぜ私は私であるのか』っていう、神経科学のことについて結構フラットに書いてくれてるのを読んでいます。意識の謎みたいなのが結構面白くて。


星山 そういうの興味あります。私は認識論みたいな哲学が好きです。自分は『見ている』っていうのがどういう状態かっていう、現象学っていう哲学にハマっていて。常識だと、ここにペットボトルが客観的に存在していてそれを主観で見ているって考えますが、これは科学的な見方で、現象学は因果関係をひっくり返して考えます。ペットボトルが私に見えてしまっているから、ここにペットボトルの存在を確信している、と考えます。自分とは何かとか、目の前にあるものが本当にあるのかとか、そういうのを、モデルを見て肖像画を描くときとかに応用したりして、新作を描いたりしています。それに通ずるものがあるなと。

崎山 結構その、現象学に近い感じの本です。今聞いてて、あれ、『なぜ私は私であるのか』と同じだと思って。


星山 崎山さんもそういうところに興味があるというのは新鮮です。

崎山 大好きですね。人体とか宇宙とかも大好き。でも集中力がなくて勉強ができなかったので(笑)。


星山 僕もそうなんですよ。教科書読めないんです。すごくわかります。めちゃくちゃ理解できる(笑)。

崎山 ほんとですか(笑)。自分が興味あることが大好きで。


星山 わかります。眠くなっちゃうんですよね。順を踏むと。歴史とかも近いところからさかのぼってってほしいですよね。原始人とかほんと眠くなってきちゃって(笑)。昨日のことからさかのぼってくれたら興味持てるのに。

崎山 確かに。


星山 でも崎山さん、ずっとそうですよ、これからも。

崎山 ほんとですか。


星山 三つ子の魂百まで。

崎山 ヤバい。


星山 変わらないと思います。

崎山 諦めるしかないですね、、本日はありがとうございました!




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